縄文人・平田篤史さんと考える「貫く力」
本日のイベントのナビゲーターはUtaEさん。アイヌ文化についての発信者であり、パフォーマーでもある。シリーズ第2回目となる今回のゲストは平田篤史さん。俳優の吉田鋼太郎を思わせる渋いルックスに、縄文服とお手製の石器アクセサリーというインパクト抜群の姿で登場した。アイヌの民族衣装をまとったUtaEさんとともに、非日常の空気が漂う。参加者たちの熱い視線が彼らに集まる。
「『トゥレンカムイ』とは何か知っていますか」。UtaEさんから皆への質問でイベントがスタートした。これは、憑神(つきがみ)と訳されるアイヌの言葉。人間の力が及ばない魂のようなものを意味するという。誰にでもそれぞれにトゥレンカムイがついているらしい。そのトゥレンカムイの力によって、私たちがここへ集うことになったと説明した。続いてUtaEさんの自己紹介。家族の写真をスライドで投影した。りっぱなひげを蓄えたおじいさんは、村の主といった雰囲気で、なかなかの威厳を醸し出している。
一方の平田さんは、6歳のとき、横浜の自宅の裏山で縄文土器を拾ったことがきっかけで、縄文土器や石器の魅力にはまった。以来、自らそれらを作り続けてきた造形作家。制作した作品で個展を開いたり、博物館の展示品を作ったりしてきた。さらに、アイヌともつながっていく。たまたま手にした雑誌のアイヌ特集記事を見て、その文様の共通性に気づいたのである。その後、お金をためて北海道へ渡り、アイヌ語やアイヌ文化を貪欲に学んだ。
平田さんのアイヌ名は『ピラタイン』。崖っぷちの男という意味だとか。縄文というキーワードが注目を浴びるようになったのは、近年のこと。ビジネスとして財をなすなどとは縁遠いどころか、質素倹約の日々。長年世間の関心を集めることもなく、ただひたすら自分の好きな世界を追い続け、貫いてきた。その意味では、常に崖っぷちを歩いてきたといえるのかもしれない。そもそも縄文との出会いは、幼いころに遊んだ裏山の崖。まさにこの言葉こそが、今に続く彼の世界を表している。
UtaEさんいわく、約束していてもすっとんでいたり、突然ドタキャンになったりと、平田さんとともに企画する仕事はハラハラドキドキの連続。にもかかわらず、ストレートに感情をぶつけられる貴重な存在だとか。彼の人間的な魅力は、縄文石器や土器だけでなく、多くの人をも惹きつけるのかもしれない。
後半は質疑応答タイム。参加者からも次々に質問が飛び交う。「本やネットに書いてあるからと言ってそれをうのみにせず、できるかぎり自分で一次情報にあたること」、「自分が何者かは自分が決める。そして、その責任は自分がすべて引き受ける」、「先回りして親が子どもに手をかけすぎないこと、子どもは怪我をしながら学ぶもの」「自分が必要だと思うことは、できるだけ自分で手に入れる努力をすること」などなど、示唆に富んだ平田さんのアドバイスで一同フムフム。終始リラックスムードの中、誰もが自由に語らう場となった。
夢を追い続ける平田さんに刺激を受けたのか、互いに情報をシェアしたり、お悩み相談したり。イベント終了後も夜遅くまで、参加者たちの熱い交流が続いた。
取材・文 伊藤ひろみ