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梁山泊茶論 異人編 第4回

CINEMA Chupki TABATA・平塚千穂子さんと考える「貫く力」

シネマ・チュプキ・タバタ(以下チュプキと表記)は、2016年、東京・田端にオープンした映画館。今回のゲスト・平塚千穂子さんは、その代表を務めている。

まずはナビゲーターUtaEさんのムックリの演奏から。アイヌに伝わる楽器であるが、演奏できる人は少なくなっているという。ラウンジに響き渡る独特の音色に、皆引き込まれていく。

UtaEさんとチュプキとの出会いは、まさに偶然。アイヌの友人と渋谷で観る予定の作品が、そこで見られなかったため、上映館を探し、たどりついたのがチュプキだった。友人が「これ、アイヌ語だね」と気づいた。そう言われると、なぜアイヌ語が使われているのかが気になり始めた。いてもたってもいられず、翌週再びチュプキへ。最初の訪問時は平塚千穂子さんに会えなかったが、そのとき館内にいた彼女に、直接その疑問をぶつけた。2017年2月のことである。

映画館をスタートするにあたり、平塚さんは「月」というキーワードを映画館名にしたいと考えていた。いろいろな言語でどう表現するかを調べていたところ、たまたまアイヌ語はどうか?と思いついた。チュプキというかわいらしい音の響きに、思わず心が動く。さらに、「月」だけでなく、自然界で光っているもの全てを指すアイヌの言葉だとわかり、迷わずこの名前に決めた。

それまでアイヌとはまったく接点がなかった平塚さんだったが、翌々月にアイヌ映画の上映を企画していた。そんな絶妙なタイミングでUtaEさんがやってきたのである。「飛んで火にいるUtaEさん」。平塚さんは当時をこう回想する。

チュプキの運営母体は、City Lightsといボランティア団体。2001年から、目の不自由な人たちにも映画を楽しんでもらえるよう一緒に活動をしてきた。2016年、ついに長年の夢だった常設のシアター、チュプキの開設へとこぎつけた。全席にイヤホンジャックを設置し、誰もが音声ガイドを聞くことができる。目の不自由な人だけでなく、耳の不自由な人、車いすの人など、多くの人に映画を楽しんでもらえるユニバーサルシアターを目指した。

理想の映画館をつくるのは、莫大な資金が必要である。それをどう調達するか、頭の痛い問題だった。あれこれ悩んだ末、クラウドファンディングを募ることに。ネットやSNSなどで広く支援を呼びかけた。その結果、3か月ほどで1800万円もの募金が集まったのである。まったく知らない人が、その趣旨に賛同し、応援してくれる。「足長おじさんって、どこかにいるんだ!」そう思ったという。

皆さんのおかげで、座席、音響設備など、充実した設備をもつ映画館としてスタートを切った。親子鑑賞室は、完全防音構造の個室。子どもが泣いても、ぐずっても気にせず、親子で映画を楽しめる。

そもそも「視覚障がい者が映画を楽しめるの?」と、疑問に思うかもしれない。チャップリン『街の灯』を目の見えない人に向けて、活弁付きの上映をしてみようと、企画したのがきっかけで、City Lightsの20年にわたる活動を通じ、どうすれば彼らのニーズにこたえられるか、試行錯誤を続けてきた。健常者が障がい者を助けるというスタンスでは、行き詰ってしまうという。ともに行動する、むしろ健常者が彼らから学ぶという姿勢が大切だと平塚さんは語る。

「統率力も計画性もないし、そもそもリーダーとしてふさわしくないと思う」と平塚さん自身の自己評価は低い。ぐいぐい人を引っ張っていくやり方を取らず、ボランティアたちにやりたいようにやらせ、それを見守る存在。UtaEさんは、それを「平塚流放牧」だと説明する。

放牧は、アイヌの精神ともつながる自然との調和。「急いで答えを求めないこと」「〇〇しなければと支配されないこと」など、貴重なアドバイスに参加者たちも大きく頷く。「何より、おもしろがることが大切!」 そんな平塚さんからの強いメッセージで、会は締めくくられた。

取材・文 伊藤ひろみ

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